にいがた百景

角海浜(新潟市西蒲区角海浜〈かくみはま〉)

角海浜
新潟市南端の角田山の断崖直下から柏崎まで延びる越後七浦シーサイドラインは,その名のとおり終始日本海の眺望が楽しめる観光道路だが,ただ一箇所,道路が避けて通る海岸がある。ここ角海浜である。シーサイドラインはこの海岸を通らず,唐突に内陸部に湾曲している。
ここは旧角海浜村の跡である。三方を山に囲まれた旧角海浜村は,明治以前には200戸を超える大集落であったが,海岸の浸食が激しいため,離村者が急増した。
昭和四十年代には人口が20人を切り,さらに東北電力による原子力発電所建設計画が村の衰運を決定づけた。昭和四十九年(1974)に最後の4人が離村し,事実上の廃村となった。(原発計画はその後,撤回された。)
角海浜
はるか沖に佐渡の島影が見える。
ここは「毒消し」発祥の地だとされる。集落は断崖に囲まれ,農業だけでは食べていけなかった。村には古くから「毒消し」と呼ばれる秘薬が伝わり,村の娘たちは山を越えて「毒消し」の行商に出たという。

「このずッと奥に角海という部落があります。角田山と弥彦山の真裏に当る海岸で、そこへ行くには今でも道らしい道がない。木の根によじりながら山をこえて行くようなところです。その部落に称名寺という寺があって、この寺が毒消しを造りはじめた元祖です。〈中略〉
そうさなア、今でも道のないような山の底の海岸だが、あそこには畑すら在りようがないのだし、角海の部落は昔は何をしていたのだろうね。大昔は海賊部落じゃなかろうかねえ」
坂口安吾「富山の薬と越後の毒消し」(1955年)

角海浜角海浜
「南无阿弥陀佛」の石碑は,墓地か火葬場の跡であろう。

(新潟市西蒲区角海浜)
2009.6.14


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